母船ヴィクトリア号

地球の統治、船内の人口、

 母船ヴィクトリア号とは、5000km²の居住面積を有する飛空艇であり、地上から約1kmの高度で巡行している。最高速度は時速100km前後であり、約150年もの間、一切着陸せずに空を漂い続けている。形状はイギリスのエドワード朝の雰囲気をベースとしたスチームパンクな豪華客船に反重力機構を取り付けたようなものであり、150年間で増築を重ね、今では歪な空飛ぶ古城と化している。

 ヴィクトリア号の目的は、地上の退廃からの避難であり、人類にとって有益な個体を存続させる為のノアの方舟である。しかしそれは人間の財力や技術などの価値基準によって選定された傲慢極まりないエゴの塊でしかない。また、それによって乗客は全て上位階級の人種たちであり、人類復興機関アルマデルへの指令を出すのもこのヴィクトリア号に乗っている権力者たちなのである。

 帰港の予定は今のところ立っていないが、資材が底をつき始めたという報告があったとの事。このままでは燃料も尽き、不時着するのも時間の問題である。ヴィクトリア号の第三副操縦士の報告によれば残存燃料から計算してあと3年が限度だと言う。アルマデルの研究員たちはそれまでに地球を元の状態に戻さなければならない。どんな手段を使っても。

 人間以外の動物はペットやある程度の家畜ならば乗っている可能性が高いが、我ら人類復興機関アルマデルは権力者達の私生活に踏み入る権限を有していないため、その詳細は一切不明である。

2021/9/21